糖尿病は合併症が怖い生活習慣病ですが、生活習慣を整えれば、合併症を起こさず、上手に付き合っていくことができるそうです。わかりやすい解説でしたので抜粋します。
ここにも書かれておりますが、高カロリーで高脂質の食事をおなかいっぱい食べていると、大腸がんや高血圧、高脂血症などの原因にもなりまりますので、栄養バランスを考えた「糖尿病食」のような食事とすることが生活習慣病予防になります。
この先生は暴飲暴食していた患者さんに「よかったね。暴飲暴食していて」と声をかけるそうで、暴飲暴食を悔やむのではなく、前向きに「よかったね」とアドバイスするところが印象的でした。こんなふうに言われたら患者さんも前向きに食事療法や運動などに取り組むことでしょう。(K)
糖尿病で生じる主な合併症
◆3大合併症--神経障害、網膜症、腎症
◇「病気のデパート」、血管に障害起こし
血糖値が高い状態が続くと、血管が狭くなって血流が悪くなったり、
血管の壁が傷ついていく。
その結果、視力の低下や脳梗塞(こうそく)など深刻な合併症が起きる。
糖尿病が「病気のデパート」とも言われるゆえんだ。
合併症はゆっくりと進行するため、症状が出て初めて気づくことも多い。
だからこそ、症状がなくとも、治療や予防が必要になる。
◇毎年3000人以上が失明
糖尿病では、「神経障害」「網膜症」「腎症」が3大合併症と呼ばれる。
いずれも、細い血管(細小血管)に障害が起きることで生じる。
なかでも、比較的早い時期に表れるのが神経障害だ。
神経に栄養を送る細い血管が詰まったり、ブドウ糖の化合物が
神経細胞にたまることで生じる。
手足のしびれなどの末梢(まっしょう)神経障害と、便秘、立ちくらみなどの
自律神経障害がある。
末梢神経障害では、刺すような、焼けるような激痛が生じることがある。
一方で、感覚がまひし、傷の痛みや温度変化を感じなくなることもある。
すると、気づかないうちに外傷が悪化し、足の潰瘍(かいよう)や壊疽(えそ)につな
がる。
目の血管が傷つくことで起きるのが糖尿病網膜症だ。
成人が失明する原因の第1位で、日本では、毎年3000人以上が
糖尿病網膜症で失明しているとされる。
網膜は、目に入ってきた光を信号に変えて脳に伝える。
カメラのフィルムの役割を果たしているが、血糖値が高い状態が続くと、
網膜の血管が破れたり詰まったりし、視力が低下する。
進行すると失明する場合もある。
◇平均寿命は15年短く
腎臓には、血液をろ過して尿をつくる毛細血管の塊(糸球体)がある。
高血糖が原因でこの血管に異常が生じると、糖尿病腎症になる。
初期は、たんぱく質が尿に漏れ出たりする。
進行すると、ろ過機能が働かず、老廃物が体の中にたまって、
腎不全や尿毒症になる。そうなると、人工透析や腎移植が必要になる。
毎年、1万3000人以上の糖尿病患者が新たに透析を始めており、
透析の理由では最も多い。
糖尿病になると、動脈硬化も起きやすくなる。
太い血管(大血管)が動脈硬化を起こすことで発生するのが、大血管症だ。
これには、脳梗塞や脳出血、心筋梗塞などがある。
下肢の大血管で動脈硬化が進むと、足が痛んで歩行が困難になり、
壊疽が生じることもある。
動脈硬化は加齢や高脂血症、高血圧、喫煙などによっても進むので、
糖尿病が軽度であっても注意が必要だ。
河盛隆造・順天堂大教授(内科学)によると、
カナダで20~70歳の1000万人を対象にした調査では、
糖尿病の人は糖尿病でない人と比べ寿命が15年も短かった。
糖尿病対策は、健康長寿社会を実現するための大きな鍵を握っているといえる。
◇血液検査で早期発見
糖尿病の初期は自覚症状がほとんどない。
▽尿の量が多くなる
▽のどが異常に渇く
▽全身のだるさ
▽食べているのに体重が減る
--などの症状が出るのは、糖尿病がかなり進んでからだ。
また、糖尿病はその名の通り尿に糖が出るが、これも血糖値がかなり高い場合で、
尿に糖が出ていなくても糖尿病になっている可能性がある。
一方、食後や激しい運動の後に尿に糖が出ることもあり、
糖尿病の診断基準にはならない。
このため、糖尿病の診断は血液検査が基本になっている。
日本糖尿病学会は、糖尿病を「血糖値が高い状態が続く状態」としており、
空腹時血糖値が1デシリットル当たり126ミリグラム以上か
食後(ブドウ糖負荷試験2時間後)血糖値が同200ミリグラム以上、
随時血糖値が同200ミリグラム以上の場合を「糖尿病型」と定めている。
この状態が続くと糖尿病と診断される。
正常型は、空腹時血糖値が同110ミリグラム未満、
食後血糖値が同140ミリグラム未満の場合で、
糖尿病型と正常型との間が「境界型」、つまり糖尿病予備群とされる。
ただ、血糖値は食事や運動などによって変化しやすい。
より正確に血糖の状態を測定する指標として、
「ヘモグロビンA1c(HbA1c)」が注目されている。
血液の赤血球中に含まれるヘモグロビンに、ブドウ糖が結びついている割合を調べる。
過去1~2カ月の平均的な血糖の状態を示すと言われ、正常値は4・3~5・8%だ。
6・5%以上だと糖尿病だと診断される。
◇治療の必要性、理解を--日本糖尿病協会・清野裕理事長
糖尿病患者や予備群とされる人たちは、
どんなことに気を付けて生活すればよいのか。
患者や医療スタッフの連合体で、啓発活動や療養指導に取り組む
日本糖尿病協会の清野裕理事長に聞いた。
--患者や予備群でも治療を受けていなかったり、
何も対処していない人が多いようです。
厚生労働省の02年度の実態調査によると、
患者のほぼ半数が治療を受けていませんでした。
ただし、これはある特定の一日に治療を受けていたかどうかを集計したものなので、
実際に継続して治療を受けている人はもう少し減り、
患者の3割程度しかいないと考えています。
健康診断で異常が見つかっても、放置する人が多いなど、
糖尿病治療の必要性が理解されていないことが問題です。
--中高年の男性会社員などは
「周囲の人は、好きなだけ飲み食いしても糖尿病になっていない」
と思い込みがちです。
暴飲暴食をした全員が糖尿病になるわけではありません。
糖尿病になりやすい体質の人となりにくい体質の人がいることを理解してほしい。
自己判断は危険です。
--生活習慣の改善はつらくありませんか。
私の病院に、いつも夕食が遅く、酒を飲み、油っこい食事が好きという
サラリーマンがやってきたら、「よかったね。暴飲暴食していて」と声をかけます。
そういう人ほど、食事などを少し見直すだけで急速に検査値がよくなるからです。
まじめな生活の人は改善の余地が少なく、薬に頼るしかありません。
--まず何から変えればいいのでしょう。
食事量を減らすことから勧めています。
酒も続けて飲むと、インスリンの働きが悪くなり、血糖値が上がります。
アルコールが入っていれば、どんな種類でも同じです。
--他には、どんなことが糖尿病対策に効果がありますか。
たくさんの課題を継続するのは難しいですから、
「変えられることがあれば、変えてみよう」という気持ちが大切です。
▽エスカレーターのかわりに階段を使う
▽昼食後に会社の近くを一周する
▽夕食から寝るまでの時間を延ばす--などが効果的です。
--「糖尿病食は健康食」とも言われます。
高カロリーで高脂質の食事をおなかいっぱい食べていると、
大腸がんや高血圧、高脂血症などの原因にもなります。
糖尿病食は、栄養バランスを考えた食事ですから、普通の人が食べても健康維持に
役立ちます。「万病の予防」にぴったりの食事といえます。
--糖尿病は治らないのですか。
発症すると、生活習慣を理想的な状態に戻しても治りません。
少し油断するだけで、簡単に血糖値が上がってしまいます。
しかし、生活習慣を整えれば、合併症を起こさず、
上手に付き合っていくことができます。悲観する必要はありません。
◇医師、看護師ら連携 栄養指導で効果、周囲にも浸透--北海道・道南地方
糖尿病の治療や合併症予防には、患者へのきめ細かな指導や、
それを実現するための体制作りも欠かせない。
函館市を中心とした北海道の道南地方では、専門医と看護師、栄養士らが連携し、
住民への情報提供や栄養指導に力を入れている。
函館市内で開業する糖尿病専門医、高橋清仁さん(56)は約20年前から、
函館糖尿病懇談会(藤岡憲三会長)の中心メンバーの一人として市民向けの
糖尿病教室や看護師、栄養士向けの勉強会を開いてきた。
「地方では情報も専門医も少ない。看護師や栄養士らとも連携しないと、
糖尿病対策が進まないと考えた」と振り返る。
活動は周囲にも浸透してきた。道南の厚沢部町(人口約5000人)では
88年度から、高橋さんを招いて、住民向けに予防教室を年1回開いている。
教室では、糖尿病やメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の解説などの
講義だけでなく、昼食では市販のカレールーを使わない低カロリーのキノコカレーを
食べるなど、食事療法に適したメニューも学ぶ。
参加者も増え、現在では100人近くの住民が参加する。
同町保健福祉課は「入院したり合併症を悪化させる糖尿病患者は減っている。
地道な活動で、住民意識も高まっている」と話す。
看護師や栄養士向けに、高橋さんらが力を入れているのが、
糖尿病患者の食生活や運動療法を支援する「日本糖尿病療養指導士」の
認定試験合格などを目指した講座だ。
高橋さんは「糖尿病治療は、他の病気以上に看護師や栄養士などの果たす役割が
大きく、彼らもやりがいを感じている。
熱心に指導をしてくれるスタッフがいれば、患者もついてくる。
スタッフの能力アップが、地域全体の合併症予防などにつながる」と話している。
◇糖尿病になりやすい行動や習慣など◇
□太っている
□野菜や海草類をあまり食べない
□食べ過ぎている
□朝食は食べない
□お酒をたくさん飲む
□ドリンク剤をよく飲む
□おやつは必ず食べる
□運動不足である
□脂っこいものが好き
□ゆっくり休めない
□甘いものが好き
□ストレスがたまっている
□夕食が遅くドカーンと食べる
□40歳以上である
□食事時間が不規則
□妊娠中に血糖値が上がったことがある
□家族や親戚(しんせき)に糖尿病の人がいる
■人物略歴
◇せいの・ゆたか
1967年京都大医学部卒、神戸大第三内科助手などを経て、85年京都大助教授、9
6年同大教授。2004年から関西電力病院長、日本糖尿病協会理事長。
毎日新聞
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